僕は悩んでいた。

「どした半兵衛、ため息吐いちゃって」

目の前には佐助がいる。
何故いるのかといえば街に出たら偶々出会っただけのことなのであるが、武田とは現在友好関係にある。
佐助と対峙する理由もなければ、避ける理由もなかった。
意識して付き合ってきた訳ではないが幸村君が言うには、僕ら二人は異様に仲が良いらしい。
親友同士のような関係なのだ。
なにかと話が合うのが理由かもしれないが、同じ属性同士というのもあるのかもしれなかった。
佐助の一歩引いたような明るさは嫌いではない。
常に冷静にいなくてはいけない立場であることへの自覚、それ故の不安や思案、またお互い主への思慕度など少し違うところもあるが実によく似ている気がするのだ。
お節介といわれるようだが押し付けではない気遣いは、落ち着くし心地良い。
それに幸村君との関係も完璧で、正直羨ましくもある。

「・・・ねえ佐助」
「にゃーに?」

どこで拾ったのか、小さな子猫をあやしながら佐助が間延びした声で答えた。縁側に転がる姿はそっちの方がじゃれている猫のようで、呆れてものも言えない。
いや、こういうところを幸村君は可愛いとか思うのか。

「・・・幸村君とはじめてした時、どうだった・・・」

子猫をあやしながらゴロゴロ揺れていた佐助の動きが止まり、素早く起き上がってきた。
声も震えて真っ赤なるのを抑えきれない僕が驚いて顔を隠す前に、至近距離に入られてしまう。
そのまま無言でまじまじ見つめないでくれ。
この世にこんな恥辱があるものかと思うくらい窒息死しかける僕を知ってか知らずか、佐助は視姦をやめてくれない。

「いやっ・・・そのっ・・・あのね違うんだ・・・」

なにが違うっていうんだ。頭が混乱してうまい言い訳が出てこない。
もちろんこんなことを口走る理由はちゃんとあったのだけど。

「半兵衛は・・・」

もういっそ話題を反らしてしまおうと必死に思案している隙に、ようやく佐助が動く。
ぽんと強めに手の置かれた両肩。そのまま思いっきり抱きしめられた。

「可愛いんだからもう・・・そんなだからセクハラされるんでしょ。」

心なしかぐったりして、強く抱きしめてからもたれるように重心を変えた佐助の体温は衣類の上からだというのに暖かい。
一瞬、何を言われたのか理解できなかったが、何が一体どこが可愛いっていうのか訳もわからず更に真っ赤になってわずかに抵抗してみる。
セクハラってなんだセクハラって。確かに色々受けてるがたかが一言喋っただけでセクハラされるだなんてそんな理不尽なことがあってたまるか。
しかし軽く暴れたくらいでは敵わない。代わりにくすくすと笑い声が降って来た。

「佐助!」
「ごめんごめん、んー、俺と旦那の初めてかー・・・実を言うとよく覚えてないのよね。なんていうか俺は頭真っ白になってるし旦那は余裕ないし、つかもう本能のまま?って感じ?」
「そんなものなのかい・・・その、痛かったりとかしなかった?」
「んや、だって初めてじゃなかったもん。ホントの初めてはどうだったかな、全然覚えてない。」
「それは僕だってそうだけど、覚えておきたいものでもないだろう。幸村君とは痛くなかったの?」
「痛くない痛くない、というより熱すぎて思考まで焼け付いてた感じだったからさ痛覚麻痺してたんじゃないかってくらい。それより圧迫感が凄くてね、旦那が入って来てんだと思ったらこう、記憶飛びそうなくらいいっぱいいっぱいになっちゃって。」
「・・・」
「あ、照れてる」

照れてない!と少しムキになって噛み付いても佐助は楽しそうに笑うだけ。
こんな日の高い内からそんな卑猥な事を言える方がどうかしてると思うんだよ佐助。(なんて半兵衛が言える立場ではない)

「半兵衛だってしてきたんでしょ?こんな話題くらい平気じゃないの?」
「ぼっ・・・僕からしたくてした訳じゃない、ただ交換条件とか、理不尽に襲われたりすることがあっただけだ!」
「んでも、されてきた訳だし経験があるんだから。」
「そうかもしれないけど、その時のことはあんまり思い出したくないんだよ。だいたい気持ち良いなんて思ったことないし・・・」
「あ、そりゃ相手が悪い。てかさ、秀吉さんとはしなかったの?」
「誰より僕の身を案じてくれる秀吉が、抱いてくれると思うのかい?」
「半兵衛の細腰じゃ死ぬね」
「それで死んだって僕は構わないけど、秀吉が嫌だろうし・・・」
「抱かれたい気持ちはあるのね。」
「・・・昔はね。色々必死に苦しい理由をつけて秀吉を困らせた事もあるけど、今は無理に抱いてもらいたいとは思わないよ。」
「じゃ、なんで冒頭の質問に至った訳?」

いつの間にか向かい合わせに座って、佐助の手が頭を撫でている。
まるで子供扱いだが、段々と慣れてきたので気にしないことにする。それより質問の理由をこうはっきり聞かれては、用意していた言葉にも詰まるというものだ。
息を詰まらせていると、佐助の指がすっと首筋をなぞり、

「ひゃっ」

思わず跳ね上がって感じてしまった。

「ちょ、何するんだい」
「うーん、半兵衛があんまり可愛いから悪戯を」
「しなくていいから!」

叫びも空しく、佐助の手は止まらない。首筋をなぞる指のいやらしさが段々エスカレートしてくる。

「あ、ぅ、くすぐったいから止め・・・」
「首って弱いよねー、急所だからかな?俺も弱いから隠したがるのかも、鬱血も残りやすいし」

首を傾げて、鎖骨付近まで這わせた指をそのまま下ろしてゆく。
当然着物の合わせに引っかかったが、戸惑うことなく合わせを押し広げて中まで浸入してきた。

「っちょ・・・待って、待って」
「大丈夫大丈夫、旦那にされた時のこと再現してるだけだから」
「それなんて嘘・・・ふぁっ」

襖に軽く背を押し付けられて、逃げ場をなくした僕の胸の尖りを躊躇なくなぞられて、堪らず声を漏らしてしまう。
覚えてないといったくせに、佐助の指に思い出すような仕草もないくせに、全くなんて嘘つきなんだ。
でも抵抗できないのは、僕の中に期待している部分があるからかもしれない。


「んっ・・・それで、誰と、したいんだっけ・・・?」
「あっ、あー・・・っう、ふぁあっ・・・!」
「ここ当たった?半兵衛わかりやすい、可愛い」
「ふぇっ・・だ、め・・ああっやああぁ!」
「ここみたくピンポイントで当ててあげよっか?」

佐助の息が耳の付け根を掠り、一気に背筋をぞくぞくしたものが駆け上がる。

「前田慶次、かな?」
「ひあぁっそう、そうだよっ、当たってるからぁっ・・・!」

とんでもないことを認めた気がしたけど、もう中を擦られる感触でいっぱいいっぱいで思考が正常に回らなかった。
世界がひっくり返ってしまいそうなほどに熱くて、頭が真っ白で、抜いて挿れられる度に突き上げるような感覚は味わった事がない程に痛烈な快楽を連れて。

「佐助、だめも・・ひっく・・だめだってば・・・」
「よしよし、はぁっ・・・ほらっ・・・」
「やっあ・・・ぁううぅっ!」

思い切り奥まで突き入れられた瞬間、強烈な快楽が全身を駆け上がって、目の前が白く弾けた気がした。

それから先のことをぼんやりとしか思い出せない、達したのはわかったし、中に佐助の熱が溢れていくのもわかった。

でも、やっぱりぼんやりとしている。体力的に少し無理があったせいかもしれないけど、それでもまだマシな方だった。
普通は気絶して終わるから。

「しかし驚いた。半兵衛があの風来坊とね、どんないきさつでそうなったの?」
「・・・むこ・・・から・・・しつこくして・・・きて・・・まけた」

余韻からくる痺れと緩慢な疲労でうまく声が出ない。

「ちょ、大丈夫?これじゃ今まで辛かったろうね・・・」
「ん・・・」

身体を拭いてくれたお湯で絞った手ぬぐいではなくて、氷を入れた盥に入った水に浸した手ぬぐいを佐助が絞っている。
目を閉じると、冷たい感触とともにその手ぬぐいが額に当てられた。

「秀吉さんなら規格外でも半兵衛に無茶しないって言い切れるけど、風来坊はどうだろうね。もしさっきみたいにガンガンいいとこ当てられて突かれ続けたら」
「うん、死ぬ・・・」

弱弱しく言葉を紡ぐ僕の頭を、佐助は限りなく優しく撫でる。
なんだろう、もうこれは兄か、父か。それとも保護者か。

「ここはひとつ俺様が人肌脱いでやりましょう。」
「?」
「簡単なことさ、学ばせりゃいい。」
「どうやって、あの慶次君に?」
「だから、攻められる奴の気持ちってのをわからせりゃいいってこと。そうだな、やっぱあの体格だしおっきいの?」
「前教えてくれた幸村くんと同じくらいかな・・・」
「それって相当大きいんですけど。危ない、半兵衛が怪我する前に手が打ててよかった。」

僕を布団に寝かしつけてから、すっと佐助が立ち上がる。

「つまり、自分よりでかいものを受け入れてみればいいってこと。」
「幸村君に頼むのかい?」
「冗談じゃないよ、つか気に入ってない相手に旦那が本気出したら風来坊死ぬかもしんないし。ここは・・・そうだね、やっぱ秀吉さんかな。」

にこりと、佐助はとんでもない事を言い出した。

「や、やだ!慶次君が秀吉に・・・そんなの慶次君死ね・・・」
「本音出てる本音!・・・え、好きなの?」
「好きだよ。でも秀吉とは比べ物にならない。」
「恋愛対象なんでしょ?」
「そうだよ。恋愛対象と絶対的存在じゃ比べ物にもならないじゃないか。」
「仕方ない、んじゃ松永さんか明智さんに・・・」
「それは慶次君が死ぬから!」
「お館様」
「絵面が暑苦しい!」
「やっぱ秀吉さん・・・」
「だめだったら!」

 

後日。

「で、俺に白羽の矢が」
「うん、みんな出尽くして最後に残ったのがアンタらしかいなかった」
「そんな消極的な選び方なの!?」
「お待ちなさい!」
「GYAAA!」
「あ、こんにちはまつさん。なんで伊達領に?」
「マツタケを勝手に頂いていたのです。話は聞きました、その役目、我らが夫婦にお任せ下さいな。」
「伊達領はすごいな、ほーらこんなにたくさん!」
「おいコラちょっと待て」
「だってアンタら実の甥子なんじゃ」
「関係ありませぬ、半兵衛を幸せに出来なかったらその時は慶次の首と胴体を引き離す覚悟。」
「怖えええええ!」
「慶次は昔よく抱いてやったんだがなぁ、子供だったし覚えてないかもしれないもんな!まつ!」
「うふふ、犬千代様ったら。」
「いやいやいやいや!」

そんな訳で、慶次くんはめでたく前田夫婦に調教されヘタレとなり、半兵衛はヘタレ慶次を可愛いなぁと思いながら虐めて愛して愛されて、二人は幸せに暮らしましたとさ。

 

 

初めてサイトにアップした18禁が佐半かよ!
でもとにかく最終的に慶半には持ってきた、ふぅ・・・(やり遂げた顔)