永き好敵手と決着をつけるため、お館様の上洛を果たすため、幸村は強く己を磨いて来た。
今の今まで、彼の目標はただそれのみであった。
しかし今、お館様の上洛はまさに目前であり。
幸村の槍は、いつからそうなったのか知れぬ好敵手の身体を、深々と貫いていた。
苦しげな声が零れ、だが、目の前の男、伊達政宗は微かに笑っているようであった。
奇妙。
という感情より、ただ幸村の心中には大きな空洞に似たものが去来している。
なんだというのか。
虚しい。言葉にすればそんな表現だが、どこか違う。
槍を抜けば終わる。
柄を握る手に溢れ伝う温度のあるものを感じながら、人事のように漠然と思った。
延々と対峙しながら、どこか信頼もしていたこの男との関係は。
某の一閃で、こうもたやすく失えるものだったのか。
ならば、もっと早く気付きたかった。
この男の存在が自分にとって何であるのか、確信するのにこんな時間を要してしまった。
片方の槍は既に折れ、どこかに吹き飛んだ。
代わりに政宗の両手に握られていた竜の爪は、みな疎らだが欠け、折れている。
改めてそれを見た時、言い知れない感覚が鳩尾あたりを襲った。
「強くなったじゃねえの、真田幸村ァ」
これは何だ。
なんて後悔のふた文字の似合う痛みなのだろう。
自らが選んだ選択で後悔などする訳がないと承知していた筈なのに。
「だが、この次は」
お館様、教えてくだされ。
まだ幸村は相当の未熟者のようでございます。
「俺が勝つ」
某の袖口を掴んで、粋に息絶えたこの男を、何故に殺したかと思う矛盾。
まるで竹馬の友を失ったかのように、せり上がる涙の理由を教えてくだされ。
「政宗えェェー!!」
暗転。
明転。
激しく起床。
「という夢をだな、見たんだぜ!?」
「それはまた愉快な夢でござるなー」
「ナニ人事みたいに言ってんだ、これはもはや運命でしかねェだろ!神の啓示ってやつだな!」
「神崇拝してたのアンタ?」
「俺とお前がベベベストフフレンズになれっつう最高の」
「独眼竜殿がやけにキモいでござる右目殿」
「右目さんなら急性胃炎で病院に行ったよ旦那」
「なんと!まあ理由はわからんでもないが」
「だからユーはスピーディーにミーと親友になるんだなっ!」
「だから親友とはなろうと思ってなるものでないと何度言ったらわかるのか」
「人の話聞かないからこのヒト」
「親友って何だ、躊躇わないことさ!まずはトレードダイアリーからレッツトライ!」
「政宗殿」
「WHAY!?」
「そもそも某は槍など持ってござらんし、貴殿とも別に対立してる訳でもないし。それはただの夢だ、目を覚ませ。」
「いった痛えいたたたた!」
「君も吐血するとは、何かドンパチでもやらかしたのかい?」
「見事に胃に大穴が開いてますねえ…ウフふフふフ」
「へえ胃に着弾か、半兵衛もよく喰らってるよ」
「誰のせいだと思ってるんだマヌ慶次」
「全部俺のせいなの!?」
「大人って大変だべな」
「いっつきちゃーん!」
「…確かに全員大人だな」
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